
JRA上半期の総決算となる第50回GI宝塚記念が28日、阪神競馬場2200メートル芝で開催され、池添謙一騎乗の2番人気ドリームジャーニー(牡5=池江寿厩舎)が、前を行く断然1番人気のディープスカイ、3番人気サクラメガワンダーを外からまとめて豪快に差し切りV! 夏のグランプリを制し最強中距離王の座に就いた。勝ちタイムは2分11秒3。
同馬は2006年12月のGI朝日杯フューチュリティステークスを制した2歳王者で、GIタイトルはその時以来となる2年半ぶりの勝利。また、騎乗した池添は05年スイープトウショウに続く宝塚記念2勝目、同馬を管理する池江泰寿調教師は同レース初勝利となった。
一方、単勝1.6倍の支持を集めた四位洋文騎乗の昨年のダービー馬ディープスカイ(牡4=昆厩舎)は、直線伸びきれず3着敗戦。ドリームジャーニーから1馬身4分の3差の2着には、早めに抜け出した福永祐一騎乗の3番人気サクラメガワンダー(牡6=友道厩舎)が入った。
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鮮やかに映える緑のターフに、父から受け継ぐ“黄金の脚”が爆発した。
「並ぶ間もなかったですね。坂を上がってから気を抜いたところもあったんですけど、きょうは本当に強かったです」
池添がいっぱいの笑顔を咲かせて、直線のシビれる手応えをこう振り返った。前を行く最大のライバル・ディープスカイと一騎打ちにもならない、アッと言う間の差し切り。まるで居合いの名人が一瞬にして相手を斬り伏せた——そう錯覚させる会心の脚。そして、返す刀で早め先頭のサクラメガワンダーも一刀両断。“ 剣客”ドリームジャーニーが、“庭”としている仁川で躍動してみせたのだ。
「スタートはいつもどおり速くはなかったんですけど、きょうは引っ掛かるところもなく、すごくいい感じでしたね。1コーナーを過ぎて前を見たら、ディープスカイ、サクラメガワンダー、アルナスラインがいて、しっかり見てついて行こうと」
ラストの脚がこれだけ切れたのも、池添が語ったようにひとえに道中の折り合いが完ぺきについたからこそ。前半、やや行きたがるディープスカイとは対照的に、この日のドリームジャーニーと池添は人馬一体。折り合いに難のあった馬のこの変身ぶりは、前走のGI天皇賞・春を使った効果にある。
「去年の安田記念からこの馬に乗せてもらって、どういう風に抑えていけばいいか分かってきた。それで天皇賞・春を使うように進言させてもらったんですが、あのレースは僕がもうちょっとうまくサポートできれば1、2着争いに加わることができたと思う。でも、これを使ったことで今回は折り合いが楽でしたし、前走の3200メートルが我慢のレースでしたから、今回は1000メートル短くなって僕も気が楽だったし、馬もリラックスして走っていましたね」
適距離ではないと言われていた3200メートルの長距離レースに果敢にチャレンジしたことによって得たものは、3着という結果以上に実のある“折り合い” という収穫。4月のGII大阪杯で斤量差2キロのアドバンテージはあったものの、すでに1度阪神コースでディープスカイを撃墜している脚だ。折り合いという泣き所が解消されれば、この爆発的な走りも必然だったか。
「去年の安田記念の後、GIII、GIIと段階を踏んで良くなっていた。もう1度大きなタイトルを獲らせてあげたいという厩舎の期待に応えることができてホッとしていますし、去年から自分を指名してくれた池江先生にも恩が返せました」
ドリームジャーニーの好走を語る上で、もう1つ忘れてはならない要素が天気。切れ味を身上とする馬だけに、パンパンの良馬場が絶対条件だった。
「今週は色んな天気予報のサイトを数時間おきにチェックしました(笑)。降水確率が60%と出たときもありましたけど、こうして晴れたのも運が良かったですね」
こう語ったのは池江寿調教師。父にメジロマックイーン、ディープインパクトなど幾多の名馬を育てた池江泰郎調教師を持ち、自身も昨年51勝を挙げ厩舎開業5年目にして全国リーディング1位に輝いた、40歳の若き敏腕トレーナー。
厩舎に初のGIタイトルをもたらしたドリームジャーニーは2歳王者に輝いたが、この馬は早熟ではないと当時から公言しており、「その公約どおりにまたGI を勝ってくれて、うれしいですね」と笑みを浮かべた。そして、愛馬の成長ぶりを「3歳時に菊花賞を使った後と比べると、天皇賞の後は疲労も少なかったし回復も早かった。2、3歳時と違って、カイバをしっかりと食べて、それが実になっていますね。腫れ物にさわる調教だったのが、今は普通の古馬の調教ができています」と語る。
また、ゴールの瞬間、池江寿調教師の胸にこみ上げてきた1頭の牡馬の存在。それが、ドリームジャーニーの父でもあり、かつて自身が助手時代に手がけたステイゴールドだった。
「ステイゴールドは何度も宝塚記念に挑戦しましたが、ついに勝てませんでしたからね(98年2着、99年3着、00年4着、01年4着)。なんとかそのリベンジも果たせて良かったですね」
当時の良き相棒だったステイゴールドの無念と自身の悔しさを同時に晴らし、次に狙うは秋のビッグタイトル天皇賞・秋、そして、01年GI香港ヴァーズでステイゴールドとともに歓喜を味わった12月の香港国際競走だ。池江寿調教師が今後の展望を語る。
「秋の目標は、左回りが苦手なんですけど天皇賞・秋。その後には香港に行きたいですね。去年は選出漏れしたんですが、GIも勝ったので今年は大丈夫だと思います。父子2代で香港を目指したいですね」
秋に来たるさらなる大舞台へ向け、池添も「秋も大きいタイトルが獲れるようにしっかり乗りたいし、これから少しでも自分がうまくなって、サポートできるようになりたい」と力強く約束する。
ステイゴールドから受け継いだ“黄金脚”。父がその輝きを年を重ねるごとに増していったように、息子もまた、その煌きをますます強くするに違いない。府中での古馬GI2勝目へ、そして父と同じ香港の国際舞台へ——夢の旅路はここからが本番だ。
-スポーツナビ-












